短歌講座作品紹介

          短歌講座作品(3月)2024年

おひなさまに夢を託して飾りしも年を重ねて省略したし

 井戸元と云われし谷に芹しげり手をさし入れば水ぬくきこと

                            大櫛登美子

 

大阪の義母(はは)が次来る日の為にパジャマを買って引き出しに置く

 川岸有佳子

 

 八十路越えからだ不調のはなし合う「一緒一緒」と笑いも入る

 うぐいすの鳴き声聞けど雪が舞う弥生の畑に馬鈴薯植える

                             小西みや子

 

(スー)星球(シンチウ)初めて覚えた中国語ピンポン球に印を付けた

 姉叫ぶ「オラに元気をわけてくれ」十年ぶりに実家へ走る

                            成岡真清

 

 外皮を剥けば顔出す目の覚める真白き(わけ)()に話の弾む

 春の陽を部屋いっぱいに貯め込んで母は針持ちコクリとしをり

                            瀧本泰介

 

教え子と写りし互いの髪色は永遠の銀と束の間の金

 卒業の寄稿文に短歌載す講座の学びを発揮しており

                            相口 学

 

 水仙が空き家の庭に白く咲く二輪手折りて花泥棒

 卒業式羽織袴で行く孫にわれの心配着崩れせぬかと

                            山下恵美子

 

庭先で聞こえてくるのはぐぜり鳴き春入学の娘重ねて

 

                             千葉由子

 

     短歌講座作品(2月)2024年

新しい暮らしを始めた母の元梅酒を添えて野菜を送る

 沢山の用事を済ました帰り道後ろの席からマクドの香り

                            川岸有佳子

 

スマホデビュー苦戦している父親へおざなりしているメールを返す

 人魚姫なりたい時期もあったなと風呂で跳ね飛ぶ娘と泡沫(うたかた)

                               岩崎有菜

 

 大根を畑そのまま抜かずでも猿に片付け頼んじゃおらぬ

 春待ちのキャベツ日に日に育ってたカモシカ害獣登場までは

                             成岡真清

 

別名は「星の瞳」のイヌフグリ日に日に繁茂手強い草に

 手の平に窪みを作って豆()せるこぼれるほどに生かされており

                            大櫛登美子

 

 初庚申四年に一度の供養祭お供え持ち寄る福本の里

 僅かの間勤めし事ある老いの身に声かけてくれし人のうれしき

                            小西みや子

 

恵方巻黙って食べろと言うけれど食べ切るまでにむせ込んでくる

 黒糖のぶつぶつ残るだら焼きを『半分こ』した少年時代

                            瀧本泰介

 

 珈琲をあなたと一緒に楽しんだ思い出そっと棺に手向けり

 テレビ塔階段使うと宣言しリタイアだめよと釘を刺される

                            相口 学

 

      短歌講座作品(1月)2024年

刈り込まず残しておいた山茶花は重なり合って紅く装う

 餅つきをまかせて二年嫁と孫に手際よくなりわれは見守る

                              大櫛登美子

 

はちみつのジュワリと染みたパンを買う口に広がる甘い幸せ

 洗濯の脱水を待つ五分間凍える指で携帯にメモ

                              川岸有佳子

 

 温かき布団のあるをよしとして被災地思い多くを望まず

 突風は枯葉を連れて土間に入る「あゝあゝ」いいつつ急ぎ戸を閉む

                              小西みや子

 

バドジズデジドダ茶の間に流れ来て意味分らんけどウキウキ気分

 終わったら一杯やろかと声掛かり薪ストーブ前に珈琲三つ

                              相口 学

 

ピピ音が聞こえず妻に指摘され体温計をまた挟んでみる

 孫たちは年越し蕎麦の『お代わり!』に『楽しいよね!』とひと言くれる

                              瀧本泰介

 

 年明けの河原でどんど火響き渡るTVを消して集う人々

 娘笑むだるま印の入浴剤入試前夜に開けると決めて

                              成岡真清

   

     短歌講座作品(11月)2023年

足早に過ぎる旬モノ友人へ遠き場所でも繋がる食卓

 感動は滅多にしない私だが見上げる夜空は誰かと居たい

                              岩崎有菜

 

唐谷で鴨十三羽ひと休み「二羽ずつ食える」娘の算用

 嗅ぐためにもらったカリンが箱いっぱいおすそ分けしたいあの人浮かぶ

                              成岡真清

 

 寒空に太く大きな虹かかる出勤途中の子らも見てるか

 メダカ飼い「子供生まれた」と子にライン「学級一つ増えたね」と返る

                              大櫛登美子

 

 亡き父が好きだと言ったマリーゴールド花どきに摘み白シャツ染める

「お待たせ」と会社の制服着た息子駅舎の灯りがほほ笑み照らす

                              川岸有佳子

 

泣き叫ぶガザの親子の画面観て何も出来ない日本もどかし

 柿の実の「熟柿(ずくし)分け合う父母(ちちはは)の野良の合間の会話の浮かぶ

                              瀧本泰介

 

「愛の花」歌う衣装はこれしかない絞りのベストに音符のカフス

 ステージで元気に演技する子らに僻地を照らす輝きを見る

                              相口 学

 

 タケウチの店主の選ぶチェック柄晩秋色着てみかん狩りゆく

 大相撲四時ともなればテレビ前最年長の玉鷲贔屓(びいき)

                              小西みや子

 

    短歌講座作品(7月)2023年

猛暑日に一尾ならばとうなぎ買い「うまい!うまい!」で暑さ吹き飛ぶ

 初めての田んぼ手伝い除草作業田車押して成長願う

                             川岸有佳子

すり鉢の底のような地我が里も半夏生の日の入り六時十分

 夏木立こもれ日のさす林道を草満載の軽トラが行く

                             小西みや子

 「始めよか」腰を上げてはまた下ろし休憩延ばす今日の猛暑日

猿害にくじけず今朝も授粉するカボチャコロッケ待つ子らのいる

                             瀧本泰介

 五十輪のヒノキを倒し皮を()ぐ十一歳の林業体験

織姫より(さそり)の似合う(ひと)もいる毒まきちらし夜毎ほほえむ

                             成岡真清

ほんのりと新茶が匂う台所母を偲んでお茶を頂く

 誕生日子らに誘われ「かざはや」へ里は一面白きアナベル

                             大櫛登美子

 ハゼユリはずっとしずかに待っていた優しい心と花開く朝を

 楽しみは家族とともに散歩して自然の声に耳澄ます時

                             千葉由子

 寿生「子らとの交流楽しみで通院止めた」と笑顔で語る

 えっマジか!蜘蛛(くも)シンクを登れない!ピューって行くのは映画の世界

                             相口 学

 炎天下交通整理のガードマンの白旗合図に会釈で通る

夏祭り浴衣姿で賑わいの志摩の夜空に花火があがる

                             山下恵美子


       短歌講座作品(6月)2023年

木場(こば)公園白くて清楚な花が咲く「あれ!何という?」「なんじゃもんじゃ」と

 種を蒔き育てた枇杷は十余年初の実をつけ小粒で甘し

                             大櫛登美子

 梅の実を選別しつつ思うなり十粒十色人間(ひと)とおんなじ

顔だけが若いと言われながらにも「もろてん もろてん」と花柄マスク

                             小西みや子

 床に伏しどくだみ梅の実待ったなし「元気一番」悔し泣きする

あの庭もここも紫陽花見事なり我が庭だけが季節遅れか

                             成岡真清

 たわむ枝桃の実付けていじらしい熟す姿は頬染めるよう

箱罠にたぬきじゃなくてねこかかりむすめが「にくだ!」慌てて逃がす

                             岩崎有菜

待合の焼き肉番組横に見て呼ばれるを待つ内視鏡室

 看護師の「胃が空っぽですから」のひと言で焼き肉()めてお粥を頼む

                             瀧本泰介

 笹百合に逢いたくて今日訪ね行く岩肌に咲く薄桃のきみ

                             山下恵美子

 二十五年ぶり藤沢駅で待ち合わせ振り向いた友変わらぬ笑顔

 手を取りて「元気だった?」の問いかけに「元気だったよ」と涙こらえる

                             川岸有佳子

 アカペラで「カロ・ミオ・ベン」を歌いたる高三のキミ青春の声

山奥の一面の花に鹿遊ぶ桃源郷に我は身を置く

                             相口 学

雨の日に蝶は飛べない空の下紫陽花にみる花びらの蝶

黄緑の光探して雨上がりほろ酔い夜道ふたりの世界

                             千葉由子

 

       短歌講座作品(5月)2023年

十年越し今年も芽が出てこんにちは じいちゃん残したにんじんの種

 母の日に娘がくれたいもバター パンにたっぷり塗って頂く

                             川岸有佳子

「若いなあ」お世辞と思えど気がほぐれ八十の背をおもいきり伸ばす

さつき咲く第二日曜佳き日なりチルド便届くマグロの短冊

                             小西みや子

 みどり色二千種類もあると云う新緑ながめ深呼吸する

タケノコの炊き込み御飯息子らも孫も喜び持ち帰りにも

                             大櫛登美子

 閉じ込めた氷砂糖と梅見つめ(はや)心で揺らし続ける

熟すまで気づかずいちご踏んづけたしゃがめば溢れる真っ赤ないちご

                             岩崎有菜

梅の実が三つ並んであらミッキー娘仲間と今夢の国

 麦秋の眺め体感柔らげるつるりひんやり伊勢うどんよし

                             成岡真清

 彩雲が田んぼのふたりを見守った遠くの友と再会した子

 さあ行こう息子が差し出す手をとって一輪車ふたつ進み始める

                             千葉由子

 定演のワンステ企画に参加して歌って創るハモりに酔わん

 大根が板前舎弟に桂むきされて乙女の如き肌に変身

                             相口 学

 幾年も納屋で眠りし漆の茶碗木箱共々見知らぬ土地へ

幼子が茶の実集めておままごとどうぞと差し出す赤いお茶碗

                             山下恵美子

年長に(なら)って続く「おいしい!」に笑いの弾む家族の夕餉

新緑の風を背に受け自転車は挨拶交わして麦の穂揺らす

                               瀧本泰介


     短歌講座作品(4月)2023年

風なくも揺れるブランコわびしくて帰らぬ日々に今を夢見る

                             岩崎有菜

 

ワラビ有り秘密の場所じゃないけれど教えてあげるやさしさまだない

ケロチュピピ命かしまし田んぼ道 なにより好きは水路の唄ヨ

                             成岡真清

 

 野の花の盛りを待ってミツバチに残せし菜畑(なはた)夏野菜()

桜花散り積む道に真っ直ぐの二本の(わだち)牛乳屋(ちちや)の残す

                             瀧本泰介

 

「ママ!見てよ」手には輝く甲虫が驚かないでねお名前の意味

子が歩く緩いカーブは「つ」の形ツツジとツバメと通学の道

                             千葉由子

 

バス旅行三年振りに参宮すおはらい町で至福のひととき

 例年(いつも)より早く採れたる筍とタラの芽行き交う福本の里

                             小西みや子

 

 大阪の義母(はは)がカバンを差し出して「染めてもらえる?草木の色に」と

「雲ヶ瀬」の新緑の径 シジュウカラのさえずり耳にゆっくりと行く

                             川岸有佳子

 

 正月の葉牡丹の茎伸びるころ野山も里も百花繚乱

 春休みマスク外して花見してボール弾けて笑顔はじけて

                             大櫛登美子

 

 タマを呼ぶ「さしみ食べよかはよおいで」どこに居るやら枯草ゆれて

父母が眠る丘まで会いに行く草餅まつり姉弟二人で

                             山下恵美子

 

例祭に神が届けし桜(まい)駐めたクルマをピンクのコイに

引継ぎの古びた缶に書かれたる五文字の中に父を見つけり

                             相口 学

 

      短歌講座作品(3月)2023年

しんしんと如月の朝雪積もり雪の明かりで新聞を読む

ひなまつり八十路の夫がふり向いて「たこ焼きよりもケーキにしよか」

                              大櫛登美子

短歌(うた)(かい)あと気分華やぎ買い物へ赤いパプリカ手に取ってみる

先生の「ひと文字加えてみたらどう」で短歌にわかに生き生きとする

                              川岸有佳子                             

川底に春の日差しの広まって水の(ぬる)むか川()の潜る

 古稀過ぎてバランス崩す事多く自問しながら階段降りる

                              瀧本泰介

春なかばモンシロチョウのダンス見る数千年の強さと感謝

                              千葉由子

砂利道に桃色まざり気づく春顔も(ほころ)待ちわびた花

山々の恵みが目覚め爛爛と摘まれたよもぎ(かぐわ)しいかな

                              岩崎有菜

制服着て「多幸(たこ)()」の丘を巣立つ朝六年ここで大きくなれた

 南風まとわりついてじゃれついて君がはしゃいで私のすり傷

                              成岡真清

少しずつ日は延びていく午後五時に馬鈴薯植えし畑に陽は残る

旬の味わけぎの酢味噌初物を「うまいねえ」と夫の声聞く

                                                                             小西みや子

十年前たった一回授業した子等と再会スタバして春

()ドラ(・・)に短歌の彼が登場し俵万智まで二首詠みて()()

                              相口

 

              短歌講座作品(2月)2023年

頂いたみかんで作るジャムの瓶に今日の思い出ギュッと詰め込む

(しゅん)(かん)に「出るんやろか」と言いながら夫と二人でこま菌を打つ

                              川岸有佳子

後ろ手に前かがみしてきさらぎの道行く(おうな)に雪花の散る

コロコロ漬友に教わりサイノ目に切った大根二月の陽に干す

                              小西みや子                             

四色の中のパインを溶かし合うあなたとだけの秘密の食べ方

 あの角に明るい金色菜の花よ春のお支度蜂の靴下

                              千葉由子

大雪に若き知人がたずね来て静かな我家に元気が届く

チョコの前あげる人なくスルーして義理チョコでもと後戻りする

                              大櫛登美子

移住して初の積雪胸踊り童心無常今ではこたつ

サッカーで疲れた息子寝床行き母の尻蹴り夢の初シュート

                              岩崎有菜

乗りたてのチャリで暴走末娘自由の翼ちぎれんばかり

 続々と新入生らたどり着き香肌あちこちざわめき時代

                              成岡真清

雨もらい柔らかくなる陽の光土の中にも虫の(うごめ)

吐く息の白さを比べバスを待つ子等のはしゃぎに引き込まれてる

                                                           瀧本泰介

中一で初めて貰ったガーナチョコ シラーの言葉が添えられており

いつもなら音楽かけて運転も今日はオフにし一首捻らん

                              相口 学

                              

                 短歌講座作品(1月)2023年

朝出かけに「帰りは七時のバスに乗る」高一の息子は始発で登校

皆のあと最後に入るぬるい風呂湯舟につかり深く息つく

                               川岸有佳子

山里に猿追う花火の音聞こゆ空家のみかん狙っているらし

セルフにてはじめてガソリンひとり入れハンドル軽く家路をいそぐ

                               小西みや子

子等送り舟漕ぐ妻の横顔に声を掛けずにそのままにおく

 コロナ禍も従兄姉と遊んだ三が日言葉増やして二歳児帰る

                               瀧本泰介

去年(こぞ)の冬は足元ぬくぬくだったのに今年は何だかつれないねキミ

新年に新メンバーが加わって短歌講座に新風が吹く

                               相口 学

冬至には柚子五個いれて入る夫体(あたた)湯治とシャレる

黒電話「使ってみたら」と孫に云う「どう使うの?」に我はあわてる

                               大櫛登美子

冷凍のドリアを食べれば思い出す母と過ごした遠い冬の日

 薪風呂で赤々茹る全身を夜風で冷まし暖炉に戻る

                               岩崎有菜

広大な言葉の海で立ち泳ぎ()十一文字(そひともじ)の救助ボート

丸い皮円満包む餃子会具材(ぐざい)内訳(うちわけ)幸福(こうふく)至極(しごく)

                                                                     成岡真清

影に触れ暗く冷たく思う時後ろにあるよ優しい光

                               千葉由子


        短歌講座作品(12月)2022年

令和の世刈る人もなくかや草を師走の風は枯穂なでゆく

品質の改良されし「はるみ」という甘きみかんをいとしみて収穫(とる)

「何てなあ」聞き返す事多くなる昭和一桁夫婦の会話

                             小西みや子

 

あれこれと指示されることの多くなり「はよ寝てんか!」でうたた寝覚める

気の置けぬ仲間と交わす年賀状「もう止めよう」とすんなり決まる

家に居てやりたいことの数多くまとまること無く一日過ぎる

初めてのバイト愉しむ妻送り小春を浴びて羊羹つまむ

                             瀧本泰介

 

娘いる奈良まで出掛けランチするお肉ほおばり家族にナイショ

干し柿をサルに盗られてなるまいと昼間は柵内夜は室内

豆を挽く楽しみできて卒業す二十年来のインスタントコーヒー

                             川岸有佳子

 

青空に竿さし出して柿をとるいくつとれるかいつまでとれるか

心友は花も団子も好きという紅葉狩りして帰りは団子

                             大櫛登美子

 

ライン上一ミリONを写し出すVARのありがたきかな

其処此処で「短歌見てるよ」の声を聞きそれをお題にできる喜び

「村神様」 も少し待てば「ブラボー」かやっぱり明るい話題がいいね

                             相口 学

腰を曲げ「落穂拾い」の絵の如くロングスカートで草むしる人

 八十八免許更新通ったとコーヒー片手に安堵の顔で

 光る海頬撫でる風心地よく沖行く船はさざ波立てて

                             山下恵美子


        短歌講座作品(11月)2022年

手ごこしく花の手入れをする友の秋明菊は徐々に増えゆく

友さそいコミュニティバスに試乗してもみじ見頃の波瀬峡をゆく

里芋を掘り片づけも出来ぬ間につるべ落しの日は沈みゆく

                     小西みや子

 

ボックスで重たい受話器上げかける公衆電話は昔を思う

夏終わりひとりばえしたジャガイモがほったらかしても沢山実る

末の子が幼き頃に植えた種十年たってやっとみかん生る

                     川岸有佳子 

 

月蝕を夫と一緒に見上げをり次に見るのは322年後

竹やぶの枯れた小枝をとまり木に落穂みつけてさえずる雀

文化の日すんだ夜空に十日月 今日は玉葱百本植える

                     大櫛登美子

 

比較する猿にやられし栗の木と実らぬ柿の木どっちもいやじゃ

電車旅スマホ一つで事足りて現金持たずを気づかずに居り

教え子が教え子呼んで講演会新聞記事見て笑みがこぼれる

                     相口 学

 

親しんだタオルがある日「ぞうきん」と書かれて軒に吊るされてをり

青春の炎の残り火なほ熱く七十(ななそ)()なるも同窓集ふ

会へぬまま帰って来ない母もいる施設の姉は如何におはすか

                     瀧本泰介

 

国道で出会った人はリュック負い北海道から大和路を行く

山葡萄フェンスに蔦を絡めつつ緑が青にやがて紫に

                     山下恵美子

             

        短歌講座作品(8月)

谷間より朝霧上る光景は墨絵の如き窓より眺む

ふる里を離れた()等の寄り所とならんと叔母は夏野菜作る

年毎に手先のこわばりきつくなり目覚め一番指折りてみる

                   小西みや子

 

夜半すぎ薄明かりの炊事場でウマオイの声聞きてまどろむ

                   川岸有佳子

 

食卓に一粒残るサクランボ「あんたが食べな」と夫は目で云う

父母が心を込めた米作り休耕田が年ごと増える

今年こそ賑わうはずの盆休みコロナ七波でまたも遠のく

                   大櫛登美子

 

宅配のアイスクリームといっしょに「食べたい気持ち」も冷凍にする

アサガオの蔓這う縁台(えん)に足の伸び娘二人はスイカ頬張る

障子戸にカサッと嫌な音のするそっと構えどデカグモだった

                   瀧本泰介

 

一昨年(おととし)は柿持って行き去年栗まさか今年は両方持ちサル?

初盆(ぼん)に聞く涙ながらの山話(はなし)には私の知らぬ父がまだ居り

「また来てな」送り火囲み空仰ぐ遠くで聞こえるヒグラシの声

                   相口 学

   

        短歌講座作品(7月)       

ほととぎすは「特 局」と鳴くという物干場にて耳すませ聞く

クーラーをつけているかと電話あり昭和一桁(つい)の住み家に

「旨いなあ」四人で作る旬の味でんがら試食二個目手にとる

                          小西みや子

亡き友に心の区切りがつかぬまま短歌のことを今も話さん

玄関に何度活けても紫陽花は長引く雨をさわやかにして

バラの花一本折ってくれた友挿し木の芽からつぼみがひとつ

                          大櫛登美子

朝夕に糠床混ぜた右手にはほんのり糠の匂いが残る

梅ジュース赤シソ少しもみ込めば色鮮やかに風味も増して

梅を干す時期が分からず(びん)揺する三日三晩の晴天を待つ

                          川岸有佳子

エリザベスカラー響きはいいけどそれつけたキミの姿は辛そうに見え

ワクチンを三回打ってもなおかかる   (ファイブ)の恐ろしきかな

再開し一緒に歌った亡き友に黙祷捧ぐ土曜日の朝

                          相口 学

一日の汗にまみれて塩辛いシャツをつまんで揉み洗いする

飯高の空を自在に滑り来る今日のクマタカ朝陽に映える

                          瀧本泰介

 

色あせて青き花瓶でもう七日香り忘れぬ梔子(くちなし)

カヌー漕ぐ浅瀬の川で初体験こわごわの顔夏休みの孫

瓦屋根登って狙う鳥の群れ(タマ)は動かず狙い定めて

                          山下恵美子

 

       短歌講座作品6月(2022)

久し振りコーヒータイムはパン屋さん十人揃ってマスクの談笑

八キロの梅漬け終えて座りこむ(かめ)を眺めてあげる子等思う

間違えて畑に植えしカサブランカ適度の肥に白くっきりと

                          小西みや子

 

およちゃんと初めて(ともな)い歩けども右手と左手一緒に動く

東京で十年振りに逢いし友銀の鈴にて際立ち見える

墓前にて兄姉(きょうだい)並んで写真撮る亡父(ちち)に報告元気ですよと

                          川岸有佳子

 

食事どき決まって流れるニュース見る談笑なくすロシアの侵攻

ハンドル手に高見峠にさしかかる崖がけガケに卯の花さきて

八十路にも山の手入れが夫の日々にぎわう声に友が友よぶ

                          大櫛登美子

 

そら豆のお粥かきこむそれだけでリッチな気分五月の盛り

聞くのも嫌な戦争の「大本営発表」を年中聞いてた時代もあった

                          瀧本泰介


      短歌講座作品5月(2022)

何となく気の晴れぬものを自問して見つけし答へは戦禍のこども

何気なくお悔やみ欄に眼をやれば短歌仲間の名前に出会う

湯に通し剥いて晒して煮たフキの香りも詰めて子どもら帰る

それ隠せ!ナイフ鉛筆飴ちゃんも忘れちゃいけないお酒の瓶も

                          瀧本泰介

クーポンを利用も出来ず初夏向きの旅行(たび)広告(ちらし)に若き日しのぶ

母の日に姪から届くプレゼント薔薇の形の菓子はチルド便

軽トラの連なり通る一六六を派手な車の行き交う五月

                          小西みや子 

「お名前は?」「メイ」と答える幼児(おさなご)は赤いサンダル片足上げて

ぎこちなくラジオ体操する夫と我も足元フラツキ多く

近頃は夫とでかけた記憶なく今日のおでかけワクチン接種

                          山下恵美子

草取りの合間に見付けた紫蘇の芽を引かないように棒立てておく

ブロッコリーそろそろ引こかと茎持つと(さなぎ)を見つけ少し待つとする

遠くまで通う息子の弁当にお数もご飯もモリモリ詰める

                          川岸有佳子

 

階段を降りつつチラッと振り返る君の仕草に思わず「キュンです」

「母の日も仏間の母は凛々しくて」あなたの一句にあなたが重なり

                          相口 学

出来るだけ 暮れの掃除もぼちぼちと「寒くないか」と夫の声する

   山口克代

歌仲間の、山口克代様が先月お亡くなりになりました。ご冥福をお祈り申し上げます。

コロナ禍の中、作品を出していただき、心和ませて頂きました。上の短歌は、

令和二年十二月に発表されたものです。私も、将来こんな歌を詠みたいと思います。                                山本記す



        短歌講座作品2月(2022)

仙台からはるばるやって来た孫は昭和のおせちを笑顔で食べる

「来年から賀状欠礼」の葉書あり老いるというは寂しき事なり

おりおりの年寄衆の歩きし道庚申さんまで今年も歩こう

                      小西みや子

 

松阪の飲み水養う台高の森林(もり)(くず)して風力要るや

森林(もり)壊れ山脈(やまなみ)荒れし故郷を君は胸張り孫子に(つな)ぐか

出社するパパの真似してかばん持ち靴はく孫はもうすぐ二歳

駅伝の好きな孫らに席譲りテレビ離れて作業服着る

                      瀧本泰介

 

二十歳(はたち)の顔マスク有りでも「ああ!」となり無しでも「えっと?」となる子らが居り

厳寒の歳旦祭で拝礼すもうすぐそこに遷宮の春

「えんやらやー」大山之神の御前で唱える声に力がこもる

                      相口 学


つきたてはヤッパり違うと餅三個醤油だけつけ平らげる孫

亡き父母が暮れに作りし蒟蒻(こんにゃく)をこの歳になり私も作る

鴨数羽ゆるい流れの川上る何かの気配で一斉に飛ぶ

                     山下恵美子

 

ぺたぺたでよれよれのタオルボロに出しお正月に出すふっくらタオル

長男が野菜たっぷりラーメンを作ってくれた正月三日目

晴れ着きて成人式の写真撮る幼き頃の笑顔のままで

                     川岸有佳子

近隣に昔懐かしポポーの木幼き頃がいっきに戻る

げんかん(・・・・)出て見上げる西の空満月輝くげんかん(・・・・)の朝

コロナ禍に息子一家と奈良で会い一時(いっとき)の間に無事を確認

                     大櫛登美子


      短歌講座作品9月(2021)

朝顔の蔓這ふ縁台(えん)に足伸ばし娘二人はスイカ頬張る

仏間からお()()を口に走り出す孫追ふ声に苦笑の混じる

散歩待つ手のひらサイズの孫の靴大人の横で三和土(たたき)に並ぶ

                          瀧本泰介

 

畑すみの根のはびこりし十薬を先の(とが)った手鍬で退治す

新しい生活様式身について初盆参りもマスクの会話

クエン酸入れし青じそ(とき)色にさわやかジュース友にふるまう

                           小西みや子

 

ゴスペルを心の底から歌い上げ満面笑みのあなたを(おも)      

「あったー」とわくわくしながらガチャ回す我をかわいく思う我あり

夏祭りコロナでなくても中止ですスカッと晴れた空は何処に

                         相口 学 

      

      短歌講座作品8月(2021)

二回目のワクチン接種を前にして食材買ひ足し有事に備ふ

挨拶のなかった高校生()は今はにかんで「おはようございます」とバスに乗り込む

銀色の日よけを背中(せな)(ひえ)を抜く男女二人に日射し(ゆる)まず

                             瀧本泰介

雨垂れが四拍子のリズム打つコールタールの空き缶の上

背を丸め母はゆっくり餡を炊く初夏の(くりや)に思いで香る

炊飯の湯気が網戸をくぐり抜け梅雨の空へと(のぼ)りてゆきぬ

                             水谷友子 

つゆ晴れ間強き日射しを背に受けて小豆を蒔きし畑に()()敷く

釣り難き櫛田の川の若鮎を今宵は塩焼きその香ただよう

気がかりな認知検査を無事終えて家路にいそぐ足も軽やか

                             小西みや子

種を蒔き育てた枇杷が十年に初の実をつけ小粒で甘し

ワクチンを二回済んだとラインする「気を引き締めて」と子等の返信

家の嫁七夕の日が誕生日実母の思い短冊に引き継ぐ

                             大櫛登美子

「どんだけでも持ってきな」と(あるじ)うビワの葉頂きストールを染める

父さんはマリーゴールド好きだった「空から見てな沢山咲いたよ」

川岸有佳子

三十年前子らの歓声こだました月出の里に一人佇む

「飯高るた」小学生と勝負する寿生(ことぶきせい)のはじける笑顔

寿(こ と)大学(ぶき)でずっと一緒に学び来た君の姿の見えぬ寂しさ

                             相口 学

友人は食べた食べたと大喜び長野まで行きサクランボ100個

薄れゆく記憶の中の母なれど息子に会えばクシャクシャの顔

                             山下恵美子


    短歌講座作品7月(2021)    

山里の古き家屋の(くりや)にも初夏の風入れ馬鈴薯を煮る

雑草(くさ)をひき木陰に入りて汗ぬぐい黒揚羽蝶の蜜吸うを見る

紫陽花のいろ濃く染めし早朝(けさ)の雨苗木をくれた人は早や逝き

                          小西みや子

梅雨晴れ間草引きをして紫蘇の芽を見つけてそっと枯草を敷く

草影に赤いカエルが出現し何のお告げか対峙して聞く

夕飯の片付けすませ夫と二人「プレバト」を観る木曜の夜

                          川岸有佳子 

大阪で教育実習に通う女孫(まご)緊急事態宣言の中を

誕生日息子(こら)にドライブ誘われてかざはやの里にあじさいを見る

梅雨時に夏日を受けてささゆりはこの温度差に耐えて咲きおり

                          大櫛登美子

あじさいがしとしと雨に打たれつつ明日の日差しを待つ日暮道に

鳥の声緑豊かなこの幸も見えない怖さに思いをよせる

梅雨晴れ間に野良猫集い茶畑に何の相談しているのかな

                          山口克代

実食いとサヤ食いエンドウ区別つかず収穫しては夫に叱られる

咲き誇るバラのアーチをくぐり抜け香りにつつまれ雨の道行く

坂道を登りきればそこは図書館笹ユリはまだ蕾のままで

                          山下恵美子

山からの冷気のシャワーを浴びながら数分間の草取りをする

「自分の名きちんと書いたことないなあ」ペン講座でのつぶやきひとつ

正装し(かり)殿(でん)遷座(せんざ)の儀に臨みいにしえ人に思いを馳せる

                          相口 学

去年(こぞ)来し(たに)の民家の庭先は夏草繁り葛(つる)伸ぶ

朴の葉を洗ふ婆ばの笑顔をも「でんがら餅」に包み込みたし

                          瀧本泰介


     短歌講座作品6月(2021)

行くとこも来る人もなき連休に八十路の足引き蕗摘みをする

雨の午後よもぎ求肥に挑戦す甘さおさえた私流「旨っ」

吾が歩く庚申堂への道のりに車通らず人にも会わず

                          小西みや子

大型の茶刈り機走るを脇に見て古稀の四人で新茶刈り取る

草刈りの土手で出会った野アザミと再会約してそのままに置く

筍の根元を鍬で探り当て梃子(てこ)の原理で「えいっ」と掘り出す

                          瀧本泰介 

花好きの私にそっとバラ一輪「持っていきな」と幼なじみは

ふるさとを離れて生きた兄の手に最後のときと金柑わたす

いたどりをゴソゴソ探し見つけてはポキンポキンと音たてて折る

                          大櫛登美子

九輪草(こぼ)れ日揺れてキラキラと色美しく連休に咲く

母の日に贈られし花見つめつつ遠い日のことわが母のこと

実えんどうきれいに並んでさやの中眺めていたい愛くるしくて

                          山口克代

好き嫌い多くて困る小四男子かまずに飲みこむネギのぬたあえ

待合室検査結果の時間待ちペットボトルの茶はのどを通らず

                          山下恵美子

畦草を刈りつつ進む刃の先に小さき花の群生を見る

こいのぼり親子の鯉は姿消し今目にするは群れ泳ぐ鯉

健康で休まずできるを願いつつ寿大学今年も始まる

                          相口 学

春の日のよもぎの香りに包まれてストール染める公民館講座

サクサクのカレーパンが食べたくて昔なじみのパン屋へ向かう

                          川岸有佳子

    

     短歌講座作品5月(2021)

冬のに株わけをしたホシギキョウこんもり茂り初夏の風待つ

懸賞で当たった紫大根をたくさん蒔いて育つを楽しむ

                          川岸有佳子

春うらら桜満開波瀬の里かつえ坂峠もふたりで越える

若き()会えると思うその矢先中止となりてコロナはにくし

タラの芽とわらび行き交う里の春夕餉(ゆうげ)の皿に初物を盛る

                          小西みや子 

ねずみ講の図を逆さまにしたようなミツマタどこまでいっても三俣

レントゲン「動かないで」と言われれば耳の痒みがますます気になる

「ホトケノザ」「オオイヌノフグリ」「オドリコソウ」芋植えるため抜き取ってゆく

                          水谷友子

医者(がえ)りしばし桜をながめると鶯までもむかえてくれる

山桜 吉野桜に八重桜黄砂も飛んで重なる「かすみ」

櫛田川にもえぎ色した欅の芽「若葉」の歌がついこぼれ出る

                          大櫛登美子

くつ下がゆらゆら揺れるすぐそばでタンポポの綿毛今飛び立たん

エコバッグ忘れし時の「しまった!」は携帯忘れし時より勝る

                          相口 学

参道の桜の花に誘われて拝する我に神風の吹く

山裾に朝霧掛かり帯となり白さを増して花をも染める

衣替え出したり入れたり着てみたり夜ともなれば冬物を着る

                          山口克代

むせ込んで背中さすられ笑われて仕上げはくしゃみでやっと治まる

雨上がり今年も来た来たクマンバチくるっと向き変え羽音の迫る

軒下の(かめ)に満ちたる春の雨 風に打たれて水面の乱る

                          瀧本泰介

四十に手の届く()の振り袖を思案しながら樟脳替える

花柄の赤い前掛可愛くてお地蔵様は鎮座している

ルピナスの色とりどりに咲きそろう主亡きとて咲かす人のいて

                          山下恵美子


             短歌講座作品4月(2021)

早朝に新聞取りに()に出れば墨絵のような朝霧を見る

記念日に夫が植えたヒマラヤ杉天に向って大きく育つ

                          大櫛登美子

 

「飯高のディーン・フジオカですってね」県外からのメールが届く

オープン戦ご当地選手の名が並び開幕しても同じでと願う

小学校で証書渡した児童(こども)らがもう中高の学び舎を去り

                          相口 学

 

和菓子講座で習ったばかりを伝授する求肥(ぎゅうひ)を前に皆わらい顔

山里の唯一社交の初午祭ごくまきもなくさびしく暮れる

「こんなとこ知らんだなあ」と大石不動の高い石段ふたりで登る

                          小西みや子

 

君は逝く若くして逝くもうゐない 我はその頃孫と戯る

暗闇の仏間のスイッチ探り当ていつも通りにお()()を祀る

春うらら電話の向かふに鶏の声移住の二人に家族の増える

                          瀧本泰介

 

テレビよりのサプリメントの通販に効くんかいなと呟いてみる

不細工な爪にマニキュアほどこせば厚塗りしても映えぬピンク色

雨の午後父が爪弾くギターの()息子が歌うテンポよろしく

                          山下恵美子

 

木蓮が日ごと頭を持ちあげて今朝は真白にやさしく開く

手のひらを太陽にあて五分間一日数回骨を養う

そこまでと出かけてみればどこもかもコロナ居座り春まだ遠く

                          山口克代

 

 

    短歌講座作品2月(2021)

紅梅はいつもの年と変わりなく蕾膨らむわが家の庭で

「おばちゃんって昔からずーっと変わらんなー」新年早々若くみられる

大櫛登美子

 

幸せも中の下かなと思いつつ福本宮の石段登る

過疎の初春(はる)「ちょっと参ってくるわ」とシルバーマークの軽トラは行く

待ち合わせの時間の(あい)に美術館へ八十路にて知る絵画の魅力

                           小西みや子 

 

年の瀬は妻の指図をそのままに取り粉まぶして「鏡」整ふ

期待した帰省叶わぬ娘らにチルドで送る田作りの味

餅米の旨さを知った孫の眼は熱さを忘れ蒸し器に移る

百歳の手になる賀状を記念にと思えど待てよ来年もある

                           瀧本泰介

 

「もう少しオシャレをしろ」と弟に合う服選ぶ二十歳の兄ちゃん

6つ上の兄が選んだGジャンを恥ずかしそうに羽織る弟

正月に家族の数だけ延びているコンセントからスマホの充電

                           川岸有佳子

 

「春からは大学生」と娘さんレジ打つ指も笑顔も弾んで

「母さん」と呼ぶ声がして振り向けば息子の「母さん」今はお嫁さん

帰り際「田舎やけどコロナには気をつけてな」と孫は手をふる

                           山下恵美子

 

冬の夜私の足元温める湯たんぽの如きキミは最高

送られし新成人の写真見て目元で名前を考えてみる

幾年も「また歌わん」と交わし来たあなたの賀状待てども届かず

                           相口 学

 

年の暮お餅つきしていそいそと帰れない息子()にあれこれ送る

 

小豆粥「吹けばその年風ふく」と昔のいわれ今も守りて

水仙の甘き香りが冬野辺に心和みて春近きかな

                              山口克代


      短歌講座作品1月(2021)

暮れ行く日は寒波おしよせ雪化粧賀状書きつつ善き年願う

はやぶさ2「リュウグウ」から舞い降りる玉手箱にはお土産詰めて

                           大櫛登美子

 

誕生日に息子から届いたおまんじゅう富士山の形何個もいただく

末っ子が姉ちゃんの背に追いついて静かに笑うが日常になる

暖かな初冬に出てきたビオラの芽鉢に集めて春来るを待つ

                           川岸有佳子

 

()亡夫(つま)の自慢の老松は独居の(おうな)に重荷となりぬ

日々新たテレビ電話の孫の(かお)囲炉裏のお湯もますます(たぎ)

                           瀧本泰介

 

出来るだけ暮れの掃除もぼちぼちと「寒くはないか」と夫の声する

初雪が風に舞い散る冷たさにやはり師走と昔を偲ぶ

                           山口克代

 

児童らと給食食べた教室でワンデイカフェのコーヒーを飲む

「これええよ!」都会人へのいち推しは冬の夜空のイルミネーション

「密」を見て「疎」のわが町で思うこと も少し「密」になってほしい

                           相口 学

 

春さくら秋はもみじと身の丈に合ったトラベル思い出尽きぬ

晩秋に史跡の会にさそわれて富永望む城址に登る

音量を上げて昭和の演歌聞き今年だけはと栃の皮剥ぐ

                              小西みや子 


    短歌講座作品12月(2020)

鹿よけの柵内に咲く野紺菊の花を撫でゆく霜月の風

「紅葉なんか」と言う夫さそい三峯路に彩り最高堪能をする

秋冷えに足腰痛む日の多く薬の誇大(こう)広告(こく)入念に読む

                        小西みや子

 

山深き温泉宿に来てみれば遠方からのゴーツートラベル

星月夜すいこまれそうわれも星宇宙旅行も夢でなくなり

                        大櫛登美子 

 

ひんやりと水の音にも秋深み舞ひ入る木の葉夕陽の中に

「おはよう」と鏡のわれに声をかけ今日も笑顔になれますように

大相撲もコロナの中で戦いて千秋楽も間近にせまる

                        山口克代

 

代休に息子と二人ラーメン店へしょう油ラーメン満足気にすする

スダチの実道の駅にて買い求め砂糖漬けにして湯で割って飲む

休校の波瀬小賑わうワンデイカフェ、ジビエカレーにマフィンやパンも

                        川岸有佳子

 

飯高の友と歌って三十年互いを讃え「ウインク」し合う

寿生(ことぶきせい)きらきら輝くその顔は学べることの素晴らしさ語る

毎朝の体重測定の数字にて季節の変化を感じている

                        相口学

 

朝の陽の奥まで差し込む六畳に新聞広げモズの声聞く

児らが待つ運動会のグランドに夕日の落ちて白線浮かぶ

ベランダにヤンマの(むくろ)(こご)秋風受けてカサリと動く

                        瀧本泰介

 

会計を済ました我に孫の声「奢りの鰻最高やわ」と

冬に咲く橋のたもとの四季桜(はかな)げに見えて風にも散らず

                        山下恵美子


     短歌講座作品11月(2020)

文明の利器のスマホに変えれどもラクラクならず四苦八苦する

四季四季に手持ちの服を廻し着て今日は秋色スーパーに行く

「生きとんもえらいんやんな」と亡媼(おうな)言った身にしむ秋に齢八十

                        小西みや子

 

出されたる和菓子頬張る我を見て姪が一言「敬老の日よ」

帽子かぶり作業している我を見てかかりし一言「ぼく(・・)これしてな」

「ごちそうさま」栗の木挟んで対峙(たいじ)する我に向かいて猿が一言

                        相口 学 

 

「ばあちゃんが私のことを忘れたら生きていけんわ」と女孫(めまご)が言う

スマホみて渋皮のまま天ぷらにカリッと揚がり渋味も残す

                        大櫛登美子

 

彼岸花墓地への道に咲き揃い「ようお参り」と静かにゆれる

はじめてのクロスワードに向き合って夕餉(ゆうげ)の支度忘れるほどに

十五夜の月がみごとに上りきて変わりゆく世を明るく照らす

                        山口克代

 

サンダルでトラクターに乗るおっちゃんの耕す後追う白鷺ふたつ

木犀の花の香りは風に乗り僕は手を止め深呼吸する

番茶刈る汗の二人にモクセイの香りを乗せた秋風の吹く

                        瀧本泰介

 

学生服の袖口伸ばしピッタリと中二の秋に胸張りて行く

今夏(なつ)漬けし梅干し今が食べ頃で新米にのせ味わう朝食

                        川岸有佳子

 

白萩は風に花枝ゆらせつつモンシロチョウを遊ばせている

 

彼岸花は咲き誇れども葉は持たず活けるをりには茅そえてみる

予約時間あわてて入る受付に「○○先生30分遅れています」

                        水谷友子

散歩道ドングリ拾ってポケットに思わず歌うドングリコロコロ

延命の治療断り眠る叔母指先触れれば熱でほとりて

                        山下恵美子

    


    短歌講座作品10月(2020)


文明の利器のスマホに変えれどもラクラクならず四苦八苦する

四季四季に手持ちの服を廻し着て今日は秋色スーパーに行く

「生きとんもえらいんやんな」と亡媼(おうな)言った身にしむ秋に齢八十

                        小西みや子

 

出されたる和菓子頬張る我を見て姪が一言「敬老の日よ」

帽子かぶり作業している我を見てかかりし一言「ぼく(・・)これしてな」

「ごちそうさま」栗の木挟んで対峙(たいじ)する我に向かいて猿が一言

                        相口 学 

 

「ばあちゃんが私のことを忘れたら生きていけんわ」と女孫(めまご)が言う

スマホみて渋皮のまま天ぷらにカリッと揚がり渋味も残す

                        大櫛登美子

 

彼岸花墓地への道に咲き揃い「ようお参り」と静かにゆれる

はじめてのクロスワードに向き合って夕餉(ゆうげ)の支度忘れるほどに

十五夜の月がみごとに上りきて変わりゆく世を明るく照らす

                        山口克代

 

サンダルでトラクターに乗るおっちゃんの耕す後追う白鷺ふたつ

木犀の花の香りは風に乗り僕は手を止め深呼吸する

番茶刈る汗の二人にモクセイの香りを乗せた秋風の吹く

                        瀧本泰介

 

学生服の袖口伸ばしピッタリと中二の秋に胸張りて行く

今夏(なつ)漬けし梅干し今が食べ頃で新米にのせ味わう朝食

                        川岸有佳子

 

白萩は風に花枝ゆらせつつモンシロチョウを遊ばせている

 

彼岸花は咲き誇れども葉は持たず活けるをりには茅そえてみる

予約時間あわてて入る受付に「○○先生30分遅れています」

                        水谷友子

散歩道ドングリ拾ってポケットに思わず歌うドングリコロコロ

延命の治療断り眠る叔母指先触れれば熱でほとりて

                        山下恵美子 

              

      短歌講座作品9月(2020)


わが村のたった一人の一年生背のランドセル大きくゆらせ

口ぐせで「あんたは若い」と姉は言う言われた私「ないしょナイショ」

のびのびと育ちたる女孫(まご)ふるさとの川に飛びこむ長き手足よ

                        大櫛登美子

 

「宝箱を開けるようだった」と電話あり私の選んだふる里産品

カボチャ苗と同時に植へしペチュニアは九月に入りても咲き誇りおり

神戸からこうのとりが飛来して静かな里の大きな話題

                        小西みや子

 

嫁くれし掃除ロボットあちこちとぶつかりながら進むを見てる

コウノトリが飛来してると東京に動画送れば「のんびりで良いね」

                        水谷友子

 

夏のパワーたっぷり含んだジャンボきゅうり厚めに切ってとり肉とたく

長男の二十才(ハタチ)を祝う小包に缶チューハイを二本しのばす

                        川岸有佳子

米作り失敗続きの毎日に父の苦労と偉大さを知る

短歌(うた)見たよ」あちらこちらで聞く声に嬉しさ半分戸惑い半分

 幸運ぶコウノトリ一羽舞い降りて(にわか)に賑わう山里の秋

                        相口 学

 

 今は亡き母の遺した手提げ籠壊れかけても捨てられずにいる

ピ~ヒャラと笛の音色で獅子が舞う袴ひるがえし次の家へと

                        山下恵美子

コロナ禍で外出控え慎ましく昭和の暮らしに想いを寄せる

朝日受けオクラの花は透きとおり心和ませ朝餉(あさげ)の支度

国道を走る車は忙わしげに家路にむかう秋の短日

                                               山口克代

帰省した集合写真この夏は頭揃わず正月に期す

里芋の葉の枯れゆくを放置せず水遣る元気暑さで()える

お彼岸の客の来訪待ちきれず外で迎へし幼時の記憶

                        瀧本泰介       



                  短歌講座作品8月(2020)

さあ今日も暑くなるぞと畑にでもろこしピーマン朝餉あさげに添へる

暑さから逃れて(かが)んだ木陰より空見上ぐればアキアカネ()

初盆で君の御霊(みたま)を迎えしが(のこ)せし家族の日常見るや

                        瀧本泰介

 

朝夕に水をやれども里芋は続く猛暑に葉はやけていく

夏菊を作り続けて三十五年今年はばっちり盆に咲いたわ

卵塔(らんとう)さん早朝参るを良しとした時代(とき)は移りて一人ぼちぼち

                        小西みや子

 

ねむの花山に咲く頃姉思う小豆の種を蒔くころですと

お互いにマスクをかけて会釈して知った人だと振り返りつつ

わが友に南高梅を頂いて土用干しする白梅甘し

                        大櫛登美子

 

コロナ禍の猛暑の続く日々なれば畑にも行けずわれ巣ごもりす

日の落ちてひぐらしようよう鳴きはじめ我等も散歩に出かけましょうか

                        水谷友子

 

緑茶氷娘と一緒に食べに行き口に広がる冷たさに笑む

盆過ぎてほんの少しの風感じ汗ふきながらドクダミ茶飲む

                        川岸有佳子

 

二年(ふたとせ)が退職祝いの包丁を今一番の愛用品とする

コロナで着 熱中症で脱 ならば半分マスクじゃだめかしら

高一で渋々始めたコーラスが我が人生に彩りを添う

                        相口 学


短歌講座作品7月(2020)

雨欲しい 梅雨ともなれば太陽()の恋し勝手なものよと雲の流れる

雨あがり雲が生まれるかのように山からのぼる水蒸気あまた

道野辺にか細き茎のネジバナはまがりまがりて空めざしをり

                        水谷友子

 

谷間(たにあい)のササユリ眺め田植えした六月の風に結い返し偲ぶ

ステイホームでラジオ体操試みて油不足の身体を曲げる

親戚が全員マスクし訪ね来る高齢私を気遣いながら

                        大櫛登美子

 

捨てられずしまい込んでた着物出し求めし時の思いに浸る

風のあるつゆの晴れ間に開け放し腰伸ばしつつ掃除機を曳く

釣り難い櫛田の川の若鮎を今年は甘露煮にして夕餉(ゆうげ)に頂く

                        小西みや子

 

頂いた何年物かの梅干しをジャムに再生トーストにぬる

マラソンの練習に励む「およちゃん」にサザンカ色の(ロープ)を贈る

「何かに使って」と不用の生地を送ったらチュニック作り送ってくれた母

                        川岸有佳子

 

スタバにてスマホ片手に思案する画面の中にはオレンジページ

帰宅から就寝時まで一緒ですキミの想いをひしと感じる

四十年前の友らと語り合うラインの中の私は二十歳(はたち)

                        相口 学

 

「美味しいよね」そんな言葉に励まされ世話した南瓜(かぼちゃ)を野猿に(とら)

鰻食べ皆淡々と店を出る私ら二人は満ち足りてをり

自走する茶刈り機械を飽きもせず見入る童の横顔涼し

                        瀧本泰介                  

        
             短歌講座作品6月(2020)






                                    短歌講座作品5月(2020)
水谷友子 作

大櫛登美子 作

川岸有佳子 作

瀧本泰介 作

山口克代 作                                   

小西みや子 作                                  

 山下恵美子 作                    小西みや子 作       
       

          短歌講座作品4月(2020)
小西みや子作

滝本泰介作


                              短歌講座作品3月(2020)
おひなさまは女性の幸を祈りきてやさしいひざしに桃の花咲く
大切な家族そろっての春休み「コロナウィルスいつまで続くの」
やってみよう自分にできる一歩から未来のためのSDG(エスディージーズ)
                          大櫛登美子

七回忌いとなむ部屋に飾られるまだ若かりし夫の遺影(おもかげ)
                          川岸佳代子

級友に会いたい気持ちを言わないで息子は今日もぼんやり過ごす
息子言う「新ジャガできたら送ってな」鍬をにぎる手軽やかになる
                          川岸有佳子

裏山にうぐいす上手に鳴くを聞き根深き春の庭草をひく
コロナ()に「3B体操中止です」友に連絡腕振りて行く
千筋(せんすじ)の木綿姿の(はは)偲び八十路の私は花柄を着る
                          小西みや子

お母さんあなたが逝って三十年色んなことがあったんですよ
学生も乗らないバスは空のままノンストップで高校過ぎる
(りく)()くん」ママも婆ばもこの爺もおなかが()くと泣き叫んだよ

                          瀧本泰介


        短歌講座作品2月(2020)


霜月のススキは風にゆれながらガードレールと白く連なる
立春をたふに過ぎたる初雪を暖冬記念にカメラに残す
                         大櫛登美子
春の日の光を浴びてトビふたつ髙き声して電柱に立つ
土作るカブトの幼虫手に包み「夏まで待て」と堆肥に戻す
嬰児(みどりご)娘を伴ひ婿の来て慣れた手つきでおむつを替へる
                         瀧本泰介

(つま)うつ菌打ちの音聞こえきて春も近いと野山を見上げる
朝霧が山肌つつみてふんわりと飛んでゆきたい今朝の雲見る
節分に(なが)旅立ち逝く人は花いっぱいの春の野辺ゆく
                         山口克代

春菊の強き()を入れ鍋にするほっこり(ぬく)もる外はこがらし
廃屋の荒れたる裏にひそやかに春の息吹のふきのとう見る
音量をまた一つ上げ演歌聴く昭和は遠く耳なお遠し
                         小西みや子

寒い夜交通整理のおじさんに「御苦労様です」と頭を下げる
コーヒーをワンランク上の物にするもう四十六歳(よんじゅうろく)過ぎたのだから
立春に花咲き終へしサザンカの色を頂きエコバック染む
                          川岸有佳子     

 
        短歌講座作品1月(2020)


元朝(がんちょう)ふもとの浅間山(あさま)辿(たど)着き古稀の決意を眼下に約す
末の()に陣痛来たとのライン有り妻の軸足娘に移る
                         瀧本泰介
七草を探して摘めばどこか春揃わぬ草は野菜を入れる
あずき粥を神々様にお供えし田畑の実りに願いをこめる
大みそかの暮れゆく空を見上げつつあれこれ想う来る年のこと
                         山口克代

長男の帰省みやげのつつみ紙箱に貼りつけしばし眺める
三人の子と横に並んで散歩する話し尽きずに笑いころげる
末の子が蒸し時間決め取りしきる今年の餅は柔らかくうまい
                         川岸有佳子

おだやかな令和二年の春迎え福本(ぐう)へ歩いて参る
御供えを皆が持ち寄る里の新春(はる) 庚申(こうしん)供養は四年に一度
蒟蒻に栃餅梅干たくあんを「これがいいの」と姪持ち帰る
                         小西みや子

若き日に自然の花をブローチにと思いし願い岡山で叶う
昨晩の激しく降りし大雨の水たまりには青空うつる
玄関に野菊を手折(たお)りて生けてみる  野に咲いてこそ似合ふ花かな
                        大櫛登美子


     短歌講座作品  4月

友の着る服に明るさ増してきて今日はみもだの花に似てをり
桜花寒さに耐えて咲き誇るかすみか雲か歌の如くに
いちごを一人食みおれど孫のためジャムにして保存するなり
                        大櫛登美子

花見する花びらひらりと舞いおりてコップに入りてお酒になった
店先にたまご並べるおじさんが「今朝産みたてや」と笑顔で話す
春まつりあちらこちらへ参りゆき夫婦ふたりで投餅ひろう
                        山口 克代

誰よりも早く参るを良しとした(はは)の教えも歳には勝てず
車中から眺める山は春もみじ年重ねるごと目に沁みるなり
春色の名前のついた種を買うさくら大根雨受けて蒔く
                        小西みや子

着任のあいさつ廻りの足元は校長以外すべてハイヒール
室温が五度の寒さもあったけど今朝は十五度外は爛漫
組織から離れた残りの人生を百年時代に如何に合はすや
                        瀧本 泰介

空を見る白きコブシが咲きほこる見あげてくれる主は居なくて
「釣り行こな」約束残して突然に夫の相棒帰らぬ人に
山菜を天ぷらにして食べる会初めて知った椿のほろ苦さ
                        山下恵美子

離れ住む初孫二十歳の誕生日ワイン片手のメールが届く
窓ガラスにピタリとくっつくカメムシが春風吹きてポロリと落ちる
                        川岸佳代子

「がんばれ!」と息子に伝えて卒業す兄貴のような複式ふく学級しき親友とも
五年振りにやっと会えた友と行く長谷寺はまだつぼみの桜
朝早く山仕事する夫を待ちいい湯かげんに風呂焚く夕べ
                        川岸有佳子





    短歌講座作品  5月

店の中「アンパンマン」をおんぶした若きパパかなはずんで通る
新緑の吉野の里は風さやか川上神社へ子等と参りて
母の日に母を偲びてふと思う見せて上げたい今の時代を
                        山口 克代
八十の背を伸ばしつゝバス旅行砺波のチューリップ念願叶う
年寄りの冷や水皆におくれまじ家路につけば痛む足首
ドクターの無理せぬ様にの(こと)守り初夏の上日(じょうび)に本読み過す
                        小西みや子

「大好き」に「大好きだよ」と返事来る孫との電話糸にて伝ふ
荒滝の不動のたににこだまする若者五人の太鼓のリズム
飛ぶ向きを急転換するクマバチはタンゴを一人で踊るかのよう
                        瀧本 泰介

口をあけ阪内川を立ち泳ぎ風無き川に鯉吹かし並ぶ
夏近くめだたぬように木陰(かげ)に咲く「クリスマスローズ」と名がついてをり
われ分けて嫁が丸めて孫つつむ茨まんじゅう蒸されてあがる
                        水谷友子

住まぬ家みやまつつじが咲き誇る自然の力絶える事無く
雨の日は心も空気も重たくて木魚叩くと「ボコボコ」音がする
新聞の折込みチラシに目を通す日帰り旅行を旅した気分
                        川岸佳代子

寮に居る娘が好きなミルクプリン冷蔵庫の隅に一つ残れり
早朝の川辺り歩けば野イバラの甘い香りがほのかに匂う
                        川岸有佳子



     短歌講座作品 6月

満開のさつきの花に蝶々来てながめもたのし初夏の午後かな
梅雨晴れ間今ぞとばかり草を取る涼しき風が背を押しに来る
ぼちぼちと夏の野菜を食すとき「よろしくたのむ」と願いをこめて
                        山口 克代

自活した孫娘(まご)の成長たのもしくGWも無事に過ぎたり
伸びた草いきなりかまで刈りとれば草に混ざれりササユリの花
ゆすらうめ葉っぱの中で(きら)めいてブローチにして胸にあてがう
                        大櫛登美子  

父の日にリボンを結んだ焼酎をさげて姪夫婦は今年も来たり
紫陽花は三日続きの雨のなか(いろ)あざやかに咲き誇りゐる
断捨離に徹するつもり外は雨思いが多く進まぬ仕分け
                        小西みや子

父母(ちちはは)の在りし姿の焼き付いた農具手に取り暇を伝へる
(あぜ)を刈る夫に休憩促して水筒手渡す妻の身重し
「ゆるして」とノートに綴りし五歳児は許してもらふを信じて逝くや
                        瀧本 泰介

露ふくむ朝の冷気を浴びながら色鮮やかに野アザミは立つ
最後尾走る女孫(めまご)を応援す抜かれる心配ないねといいつつ
                        水谷友子

父亡き後箪笥の隅で留守番し懐中時計は今なほ刻む
何処からか風に吹かれて飛んで来たニワセキレイの花庭先に咲く
梅雨になり明日も雲行き怪しいと土に(まみ)れてジャガイモを掘る
                        川岸佳代子

夕暮れにジューンベリーを摘みながら子供の成長友と伝え合う
末っ子の白組団長カッコイイ足上げ胸張り行進をする
お父さんマリーゴールドが咲きましたあなたの好きな匂いの花です
                        川岸有佳子

一年生に楽しいかなと聞いてみた少し間があり返事は「微妙」
施設への入居を拒む叔母ちゃんを聞こえぬふりして衣服に名を書く
会うたびに叔母が笑顔で言う言葉「皆に言われる九十には見えん」と
                        山下恵美子



       短歌講座作品 7月

公園の森の中から聞こえくる「朝から暑くなるよ」と蝉の声
七月場所浴衣すがたの力士らが名古屋の街を闊歩(かっぽ)してをり
この暑さ鉢植トマト水切れで力なくせど明日は生きてね
                          山口克代

湯谷川の大雨のあとの岩の上ぎぼうしの花一斉に咲く
赤茶けたほのかににおう手摘み茶は遠き記憶の母の味する
露草の青紫に目が止まる雑草として引かねばならぬ
                          大櫛登美子 
 
半夏生過ぎてねむの花峡に咲き小豆蒔く旬 (はは)の声する
高齢者講習会をクリアしてご褒美としてうなぎ買ってく
UVカットの腕カバーを日焼けした腕に巻き付け猛暑のドライブ
                          小西みや子

砂利すくいパワーショベルは向きを変えティラノサウルスのごと轟音(ごうおん)を吐く
休憩に冷やしタオルで顔ぬぐう今年の暑さは「半端(はんぱ)ないって」
「死ぬから」とわが家はエアコン入れたけど学校(がっこ)の子どもはまだ耐えている
                          瀧本泰介

東南の空に薄雲流れきてストロベリームーン輝きを増す
雨の日はミシンの前に陣を取り穿()くあてのなきスカーチョつくる
雨がる被災地の姿と比ぶればわれの集落箱庭のごと
                          水谷友子

君は今青レンジャーに変身ねアンパンマンのマント脱ぎ捨て
三つ目の踏切超えれば娘宅野菜詰め込み車走らせる
珍しく見たい映画が一致してコーヒー片手に駆け込む我ら
                          山下恵美子


                 短歌講座作品 9月

この夏は猛暑震災台風と変わりつつある自然界なり
赤い薔薇(ばら)香りやさしくありし日のあの人偲ぶ雨の降る日に
敬老の日 孫から(つま)に電話ありうれしいひと時声はずませる
                        山口克代

大型の台風過ぎて安堵して空見上げればうろこ雲見ゆ
栗の実を拾い集める初秋にも異常気象で収穫ならず
                        大櫛登美子 
 
(とき)くれば土手にあまた曼珠沙華彼岸の準備のつみ団子買う
日本の期待を肩に稀勢の里ハラハラドキドキ土俵は続く
黄泉(よみ)の子の植え逝きし花玉すだれ清楚な白さに幼顔みる
                        小西みや子

(とお)までを三回数える水遣りのホース取り合う幼子二人
秋雨に濡れし仕事着そのままに暖房入れて家路を急ぐ
久々に名古屋の街の空気吸い女性の歩幅に負けじと歩く
                        瀧本泰介

犬の名を呼べどそしらぬ顔されてヨイショと立ちて夫傍にゆく
蚊も出でぬ酷暑の夜の孫ふたり縦横無尽に布団をめぐる
盆すぎて朝の冷気に目覚むればとなりに孫らの姿今は居ず
                        水谷友子

この夏の猛暑続きですぐ枯れる墓花の筒に水を補給する
「半分、青い」は家族そろって観るテレビ十五分間の夢みさせてもらう
亡き夫の誕生日が近づきて今居れば七十四歳の貴方を想う
                        川岸佳代子

「検診もそろそろやめていいかな」と八十歳の婦人バス待ちて笑う
停電でスマホ使えず一本のロウソクの灯を囲み語らう
「おかあちゃん薄焼き玉子早よ焼いて」ミルフィーユオムライス親子で作る
                        川岸有佳子

三輪車こぎて遊びに来てくれた隣の幼子も社会人になる
鈴虫の籠のぞきこみ心配げに「今日は鳴かんね」とナス入れ換える
三味線のつま弾く音の流れきて風流やなあと足止めて聞く
                        山下恵美子


        短歌講座作品11月

フジバカマの花から花へと遊びいるアサギマダラは海わたるとふ
笊いっぱい里芋の皮を剥きくれし義母おもひ出すわれの手の痒みか
早朝の祭りのあとの広場きてカラスとセキレイ何を啄む
                        水谷友子

誰かしら玄関に来る客の音?「カサカサコソ」と「コソコソカサ」と
毎日の落葉掃きも終りなり寒さも増して冬本番に
南天を百舌の来ぬうち玄関に白い花瓶にたわわに活ける
                        大櫛登美子
 
着惜しみてはやらぬ型の服羽織り秋の終りに「よしもと」を観る
土手の草刈り取る人も今はなく芒の穂先を風がなぜゆく
野紺菊は秋の終りを告げる花ひそやかなれど想い出かえる
                        小西みや子

「おじさん」と呼ばれ戸惑う違和感に「まだ若い」という自分が居てる
おひさまの匂いを息子にあげたくて干した布団にカメムシひとつ
土曜日は声聞くだけの定期便受け手の孫は心得てをり
                        瀧本泰介

バザーの日商品なかなか売り切れず気になり自分でまた買いもどす
ガラス戸の多い我が家の一日は「ガラガラパタン」と出入(ではい)り続く
いよいよにチラシ見るのみだけじゃなく日帰りの旅明日に迫る
                        川岸佳代子

ススキの穂採りて姉弟チャンバラすくにゃりと折れて笑いころげる
                        川岸有佳子



              短歌講座作品3月(2019)

採りたてのとがった形の春キャベツ友は手にとり「これやらかいなあ」
認知症予防に効くと習いたる牛乳スープはおつな味する
覚え書き今だはずせず貼ったまま「ニーズ」「リスク」「スランプ」「トライ」
                        小西みやこ

頬に付く髪を払えと言う吾に我慢してろと床屋はおこる
土作るカブトの幼虫手に包み期待を込めて堆肥に戻す
飽きもせず二羽の鳶は寄り添うて光の中で電柱に立つ
                        瀧本泰介  

裏山のチェンソーの音途切れたりカラスひと声鳴きて飛び立つ
農協のATMのドアの中アンパンマンが見張りについた
ワルツ舞うひらりひらりとスカートも社交ダンスに回りて踊る
                        水谷友子

豆まきの鬼もだいじな今の世に世なをし鬼さん鬼は内かな
水仙を一輪差しに二輪差し甘く香りて小さな春が
杉花粉けむりの如く舞い上がり山肌つつみ谷間に消える
                        山口克代

子ら寄りて義母(はは)の思い出語り合う何より供養の十三回忌
火曜日に今日は木曜と言いきる夫に勘違いだけかと心配になる
                        山下恵美子

飛行機がスーパームーンを目指している快晴の夜の天体ショー
「はやぶさ2」不屈の心で「リュウグウ」へ玉手箱さげてのお帰りを待つ
鶯の鳴き声聞いて目を覚まし今日は一日良い事ありそう

                        大櫛登美子


      短歌講座作品4月(2019)

ピーピーとせかせるレンジにしばし待て電話の応対こちらが優先
ナスカボチャトマトを植える晴れた午後我が家の健康守る夏野菜
大正からやがて迎える令和まで寡婦のくらしの長かりし姉
                        小西みやこ

猫だって行きたい所があるときは濡れるを構はず小走りで行く
寒空にキャベツを(ついば)むヒヨドリは我の消ゆるをいつまでも待つ
参道に赤き椿のふたつ三つひとつ摘まみて春を嗅ぐはふ
                        瀧本泰介  

鯉たちも池の端よりそい静止する四月初めの霜ふる朝に
雲のごと枝を広げる桜あり雪ふるやうに風に舞い落つ
さくら散る庭のすみには花(むしろ)池の水面に花(いかだ)浮く
                        水谷友子

桃の花さくらに負けず咲き揃い日ざしの中であざやかに咲く
春まつりの明日に備えてかざりつけ宮役さんの声はづみをり
                        山口克代

元号が発表されし瞬間の「令和」の時代を生きるよろこび
桜舞う本居館で夫婦して「令和」由来の万葉集にあう
                        大櫛登美子

孫の家帰り支度する我を見てボソッと一言「10分おって」と
小一の孫の靴に足入れてみた後わずかかな今は窮屈
突然に母は40で世を去ったあの日の辛さ話せる日も来た
                        山下恵美子
 
亡き義父より畑を継いでもう五年「やっぱり土、土作りが大事ですか?」
「じゃあまたね」新しい生活始まる息子背を向けたまま「うん」と答える
「花は咲く」を静かに奏でる君トランペットで響き合った日々思いを込めて
                        川岸有佳子

(とき)くれば日毎膨らむ木々の芽よ令和に向けて根強く生きてね!
受験生嵐のごとく過ぎた日々まだ二週間君は慣れたかな?
だんだんと家族少なくなる我家大人三人無口な夕餉
                        川岸佳代子


              短歌講座作品5月(2019)

たけのこを届けてくれる友ありて「体力いるネ」と思いえがきぬ
元号をビューティフル・ハーモニーと英訳す地域の友と世界の友と
母の日に長身の息子は玄関に笑顔で飾る鉢植の花
                        大櫛登美子

そろそろと終わり近づくイタドリをわき目もふらず今日取りつくす
運動会昔は秋に今は春変わらないのはお弁当作り
ホームの会綿あめほおばりうれしげに笑いし叔母は九十二歳
                        山下恵美子 

(かみ)から授けられたる十連休私はテレビで渋滞見ている
ボトル茶を飲んでいる息子にくどくどと効能いいつゝ香肌茶持たす
宅急便今年も姪より花届くお礼のキャラブキようけ作ろう
                        小西みや子

大豆苗十本ほど植え腰のばす見上げる空はターコイズブルー
猿二ひきエンドウ畑に座りいて逃げしあとには空の莢ならぶ
                        水谷友子

花のこと大好きだった義兄(あに今笑顔は残れど我を認めず
一分で出来る化粧と言ったのに五分遅れた今日のお出かけ
古木()(うろ)言蜜蜂出入るを見つけたりこれを待つこと三年経つ
                        瀧本泰介

一人暮らし散髪代がもったいないとくるくるの毛でただいまと言う
ばあちゃんの代わりをするよと意気込んでホテルの皿洗い頑張る娘
末の子は青白い顔して空手の審査おにぎり一個も喉を通らず
                        川岸有佳子

              短歌講座作品6月(2019)

羽根広げ一直線飛ぶ燕巣場所めがけて雛に近づく
ひとつ終えふたつみっつが終えた今梅雨晴れに似た安堵の我が
気勢わしく生きる選択肢心と身体が反比例する
                         川岸佳代子

ホトトギス向かいの山を住みかとし雨の日暮れはせわしげに鳴く
頭之宮へお参りすれば涼しげな令和の風が吹き抜けていく
紫陽花が雨に打たれてゆらゆらと花の雫も七変化やな!
                         山口克代

人住まぬ家になれども庭先に深紅のバラは今年も咲きたり
野辺に咲く夏告げ草の姫女苑白き小花を手折りて生ける
水無月の沿道いろどる紫陽花は恵みの雨受け更に彩濃く
                          小西みや子

友達が手塩にかけたバラ園でひと枝欲しいと言えずに帰る
顔洗う鏡に写る光りあり振り返え見れば蛍が一ぴき
夫が挿すたったひと枝のササユリは香り放ちて部屋に広がる
                           大櫛登美子

東横線でランドセルを背に編み物を始める女児が向かいに座る
いつになく待合室が空いている人気の先生今日はお休み
笑いたいでも笑えないことのあるひっくりかえる夫を見つけて
                          水谷友子

人の棲む気配の消えた軒先の蛇口に葛の絡まりてをり
老夫病むも揃枝機操り茶畑を守る老婦の背な丸くなり
                          瀧本泰介

ちぐはぐな叔母の会話に苛ついて優しく返せず施設を帰る
戦争を知らない二人が広島の原爆ドーム前に立ち尽くす
                         山下恵美子

      短歌講座作品7月(2019)

どうしてもトランプゲーム勝ちたいとジョーカくるたび顔に出る孫
夕食のコロッケ揚げる新ジャガの衣破けぬかとハラハラドキドキ
荒滝で蛍待ちつつ同窓会雨も上がりて源氏は光る
                         山下美恵子

夏至近く木漏れ日の入る林道で汗ぬぐいつつ芋しばを刈る
長雨に(かい のねむの木花まばらつゆの晴れ間にいそぎ小豆蒔く
里芋の露で墨すり短冊に願い事書きし遠き思い出
                         小西みや子

(の写真クラブ案内で見付けると指で広げて拡大をする
「ねえ母ちゃん野球しよ!」と誘われて夕暮れの中キャッチボールする
久しぶりに寮より帰ってきた娘夜はみんなでロッテのチョコパイ
                          川岸有佳子

雨続き洗濯物はさらに増え太陽出るを待ちわびており
らっきょうをいつ植えようかと空あおぎ雨の止み間に鍬を手にとる
姉の乗る救急車を追いながら幼き日々を思い出している
                           大櫛登美子

雨の中稲穂を眺め畦に立つ亡父(ちち)の姿のよみがえりけり
背の丈に伸びたヘチマに蟻ひとつ「ジャック」さながらテッペン目指す
食事中()せ込む吾を笑ってた妻もこの頃その気配あり
                          瀧本泰介

                短歌講座作品8月(2019)

一軒家ポツンとまではいかずとも夜の静寂しじまにふくろうの鳴く
還暦を過ぎし者らの始め()インスタグラム田舎を(おこ)さん
早朝にブルーベリー採る背や腕が汗ばみ始む今日も猛暑か
                      水谷友子 

野良に出る機会少なくなりし今からかわれつつ農帽を買う
川俣の夜空いろどる盆花火眞下で眺める感謝感激
(ぼん)(だな)の手抜きのあるを許し乞いつるやで求めし積み団子(そな)
                      小西みや子 

青空は「どこにもないネ」と見あげてるひと月にもなるうっとうしい日々
シーツ干す竿にとんぼがとまり来る台風一過の秋のおとづれ
戦争の体験聞くと本当は「言いたくもないつらいことなの」と
                      大櫛登美子

松阪駅の改札口をくぐり来て「母ちゃんの飯食いたなったわ」と
初めての浴衣はあじさいの花が咲く祭りを待ちわぶ十七歳の夏
                      川岸有佳子

帰らなと叔母の口癖又始まりて歩きかねてて何ができるの
カンカンと遮断機降りて電車が通過一両だけの黄色の車体
                      山下恵美子
太陽を背負い(はた)する我の汗(ぬぐ)う木陰に蝉の声する
(のん)兵衛(べえ)を幸せにした酎ハイの空き缶拾い土手の草刈る
子等帰り誰も()めてくれないから自分で褒めると妻は言う
                          瀧本泰介


         短歌講座作品9月(2019)


三役をこなしてすすむコンバイン機械の進化にしばし見とれる
一日に百字を書いて千字読む認知症(にんち)予防に今宵も「めめす字」
そうめんをお皿に盛りて具をのせる手抜き料理をテレビに学ぶ
                         小西みや子 

(にら)の花横に並んで真っ直ぐに風が吹くたびほのかに匂う
ケーブルテレビに魚をつかむ孫が出て歓声上げる茶の間の二人
「お母さんおばあちゃんにはありがとうございますやろ」小二の孫が言う
                         山下恵美子 

蛾と虻の亡骸(なきがら)ありてあちこちにたった五日の留守の間に
家中に秋風入れんと開け放つ風鈴三個いっせいに鳴る
園庭をいだてんのごと走る孫通せん坊すれど向き変へらるる
                         水谷友子

ごまの花うす紅色にほほそめて実を守りつつ秋風に揺らぐ
この暑さゴーヤカーテン水切れで日暮れを待ちて水やりをする
明け方に裏山からの蝉しぐれ「暑くなるよ」と心せかして
                         山口克代

家々を渡る神楽(かぐら)の笛太鼓亡母(はは)は新米升に盛り待つ
汗だくで草刈りをする(かたわ)らを冷房効いたトラクター行く
                         瀧本泰介

医者(せんせい)はもう治りましたと言うけれど「あともうちょっと」と一粒を飲む
長男の十九歳の誕生日妹が焼いたケーキで祝う

                           川岸有佳子

        短歌講座作品10月(2019)

茹で栗の皮剥きながら幼き日競って拾ったこと思い出してる
自己流に甘味ひかえた渋皮煮口いっぱいに秋の味する
そうめんをお皿に盛りて具をのせる手抜き料理をテレビに学ぶ
                         小西みや子 

我の手に孫の右手が繋ぎくるぎゅっと握りかえる(いと)しさまして
秋の宵本の世界を抜け出せずページめくれば日付は明日に
雨蛙浴室の壁に張り付いて朝までいる気か窓を開けても
                         山下恵美子 

露草は草むらの中に数多(あまた)咲き草刈機の音徐々に近づく
土間に置く犬のしきりに吠えをれば小さき蛇の横切るを見る
厚き雲次々流れ台風の徐々に近づく空を見上げる
                         水谷友子

台風も無事すぎ去りて西空の夕やけを見て手を合せをり
こ朝おきて寒い寒いと厚着して部屋のすみには扇風機が居る
虫の音も日ましに低く聞こえ来て季節は少し深まりを増す
                         山口克代

木犀(もくせい)の香りを()でしその夕に「スギ茸」下げたる友を迎へる
汗足音の通り過ぎれば匂ひ来るさつきの人は女人なりしか
ラグビーのトライの歓喜我が家ではハイタッチして隙間も埋まる
                         瀧本泰介

若い母が「だめよ!」と言うのを聞かないで雨の水たまりバシャバシャ遊ぶ子
姉ちゃんも兄ちゃんも下宿へ戻ってき家に一人の末の子無口
赤まんま群れて咲く頃になりやっと仕舞おうかと扇風機見る
                           川岸有佳子

       短歌講座作品11月(2019)

文明の利器のあふれる時代にもストーブこたつで暖とるふたり
賞味期限のせまりし品を追加して夕餉の膳をにぎやかにする
霜月の小春日和に友人(とも)誘い田中資料館と紅葉を見る
                         小西みや子 

橋の下浅瀬の川を渡り切るうりぼうふたつ母猪(はは)に続いて
いいかげんスマホに替えなと説く友も実は未だに使いこなせず
朝食のサラダを作る傍らで夫はコーヒー二人分作る
                         山下恵美子 

老いてなお出来ることはと短歌(うた)づくり広辞苑の重さにふらつく
土間に置く犬のしきりに吠えをれば小さき蛇の横切るを見る
はやぶさ2りゅうぐう破片手土産に8億きろの旅を思いて
                         大櫛登美子

逝く人におくりしうたは切なくも共に歌いて安らかなれと
寿大学(ことぶき)に学び豊かなこの日々に感謝しながらまた来年も
虫縁台で初冬の日ざしにつつまれて柿はぐ我は亡母(はは)の姿か
                         山口克代

掘りたての生姜をおろし里芋のホクホクいただく妻との夕餉
蛇口から(ぬく)たく感じる水の出る被災の地にも日常戻るや
                         瀧本泰介

おばちゃんに「口養生が大事や」と言われお菓子をちょっと止めてみる
道の駅の手作りコーナーのバッグインバッグ手に取り迷いつつ買う
月一度ATMから下宿代を元気でいてねと息子に送る
                           川岸有佳子

       短歌講座作品12月(2019)

沢蟹に散歩のすがら出くわして私は縦に蟹は横にと
バス停に黄花コスモスあでやかに初冬というも咲き誇りおる
軽トラで曽爾(そに)高原へ夫と行く光輝くススキえがいて
                         大櫛登美子
山茶花が風に吹かれて揺ら揺らと白き花びら地面におちる
店先も日ごとにぎわいこの師走心せわしく今日も暮れゆく
千両が松の木陰で赤々と幸を祈りて来る年を待つ
                         山口克代

中庭で子等が遊んだ散水のホースは縮かみ落ち葉に埋まる
露光るブロッコリーの月影は昼間見せない営みのあり
縁者をも拒んで済ます葬送に初めて出会い言葉に詰まる
                         瀧本泰介

年ごとに鉢を運ぶも腰にきき土そのままにパンジー植える
ランチの会背を曲げぬ様心して若き仲間とハンバーグ作る
幾手間をかけて栃の実灰汁(あく)すれば匂いはたちまち土間に広がる
                         小西みや子
寒い朝洗濯してる足元にノラ猫すりより小さく鳴いた
起きぬけにギックリ腰の痛み増し夫に言えば「医者行ってこい」
                         山下恵美子

のど自慢亡父(ちち)のためにと青年の歌声響いて鐘全部鳴る
剪定のローズマリーの枝煎じお風呂に入れて香りを楽しむ
                         川岸有佳子